カテゴリー「ザ・体験談」の7件の記事

人間ドックというものに初めて



人間ドックというものに初めて、昨日、行った。



「ドック」という言葉の、何と不快感なことか。


そもそも、船舶の検査や改修工事を行なう場所を

ドックと呼ぶ。その人間版という意味なのだろうが、

"骨髄バンク"にせよ、"人間ドック"にせよ、

もう少し気持ちのいい名前を付けられなかったものか。





そんなことをブツブツをつぶやきながら、

受付を済ませ、水色をした無様な検査服に着替え、

係の女性に呼び出されるまま、番号のついた部屋へ

入り、検査を済ませていく。




身長、体重、血圧、エコー、心電図といった検査を

無難に済ませ、血液検査で30ccほど血を抜かれ、

気力の下がったところでバリウムを飲まされ、

胃透視カメラの台の上でグルグルを目を回し、

さあそろそろ堪忍袋の緒が切れるぞ、といった刹那、

係の人から、別室へ移動するように告げられた。





「脂肪肝(しぼうかん)、ですね」




高価そうな老眼鏡をゆっくりと外しながら、

熟練の老先生が、ムッスリとそう告げた。



肝臓に脂肪がたまっていて、このまま放っておくと

糖尿病や成人病、心臓疾患などに至る、という。



幸い、血液検査の結果では、そういった病気の

初症状は出ていないので、今から養生して生活すれば

十分に回復できる、とのこと。





いったい何を養生すればいいのですか?と聞いたところ、

机からアンケート用紙が出てきて、質問攻めが始まった。




「普段、運動してる?」

「いえ、あまりしてません」


「体を動かす仕事ですか?」

「いえ、残念ながら、ほとんどデスクワークです」


「通勤で歩くぐらいのことはするかね?」

「いえ・・・・車で移動してます」


「歩くことを全くしないのかね?」

「あ、たまにゴルフをやりますので、その時は歩きます」


「外食することはあるかね?」

「はあ、たまに・・・。いえ、スイマセン、よく行ってます」


「週に何回ぐらい外食するね?」

「なんていうか、その、5日ぐらいは外食です」


「和食と洋食、どっちが多いね?」

「ほとんど洋食ですけど、脂物はなるべく避けたり・・・」


「まあいい。酒は飲むのかね?」

「あ、はい、ワインを飲むことはあります」


「一回の食事でどれくらい飲むのかね?」

「そうですね、人より多いかもですね・・・1本ぐらいです・・・」





何か考えるような横顔で、老先生はペンを置いた。




最後に、何歳か?と尋ねられたので、答えた。





「あんた、若いのに、オッサンだ。どんどん太るよ。」





そう、短く結論を述べられた。




齢80は過ぎているであろう老人から、"オッサン"と

呼ばれ、未来のデブ像まで予告され、さすがに躊躇した。



あ、ゴルフは下手なので、カートに乗れずよく走ってます、

と、あとから自己弁護を述べてみたが、

何を言うの、若いのにカートなんか使うんじゃないよ、

と一喝。



薮蛇が一匹這い過ぎて行き、会話は終わった。





最後に聴力の検査を行なった。

耳が人並み優れて良い、ということが分かった。





受付で会計を済ませ、迎えの車に乗り込んだあと、

胸にむせかえるバリウムの苦臭に耐えながら、

車窓から過ぎ行く景色を眺め、頭の中で呟いた。





・・・俺は、耳のいいオッサン。



そして、将来、デブって死ぬ・・・。





初めての人間ドックが教えてくれた内容は、

あまりに辛辣だった。



このショックから抜け出ることは、当分無いだろう。




END

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大好きだったベーグル屋が、突然



大好きだったベーグル屋が、突然マズくなっていた。



もともと東京で人気を博していたベーグル専門店。

自分の地元にも、数年前にデパ地下に一軒、

二年ほど前に路面店に一軒、合計二店舗があり、

若い女性を中心に人気を上げていった。



たくさんの種類の中でも、"十五穀"というベーグル

が大好きだった。


穀物の風味がとても豊かで、ずっしりと重たく、

噛むほどに味わいが増す、素晴らしいベーグルだった。




昨日、街に出たついでに久しぶりに店で買って、

会社に戻り、珈琲を淹れて、ワクワクしながら食べた。



・・・・・ずっしりと重たく味わい深い、あの食感は、

いったい何処へいったのやら。


スカスカで、やわらかく、味わいもなく、ただ、マズい。

まるでキツネにつままれたような感じにおそわれた。



一緒に食べた仲間の女性が、


"ふくらし粉が増えたね、もうこれ、美味しくないね"


と言った。



つまり、粉でふくらませて空気を増やし、スカスカになり、

そのぶん原価は下がったが、味も下がったということ

なのだろうか。



売上が悪く、儲けを増やすため、泣く泣く原価を下げた

というパターンなのかもしれない。


もし、そうだとしたら、悲しいことだ。



そして、自分にも責任を感じてしまう。



そんな事態になる前に、もっともっと、あの店の大好きな

ベーグルを、たくさん買って、お店の売上に貢献すべき

だったのだ。



そうすれば、こんな悲しい思いをせずに済んだろう。





大好きな食べ物の味が変わってしまったり、

大好きなレストランの味が変わってしまうのは、

とても悲しいことだ。




十二年ほど前、会社の先輩に連れられて、ある

ラーメン屋に行った。


"秘伝のたれ"で有名な、唐辛子ベースのラーメン。


はじめて食べたときの、あの美味しさと衝撃は

いまでも忘れられない。



食べた翌日に、友人達を連れていった。

どの友人達も、そのラーメンの美味しさに魅了され、

週に一度は食べにいくほどだった。



自分など、夜に食べたあと、また夜中に食べたく

なって、わざわざ起きて食べにいったことがある。


それほど美味かった。




ある日、友人から電話があった。すぐ店に来いという。


いつものようにラーメンを食べた。


まったく違う味になっていた。


味うんぬんの前に、麺も違うし、スープも違う。ネギも違う。



あまりのショックに、店を出たあと、裏口から

店長らしい人物に声をかけ、説明を求めたところ、

"経営者が変わった"のだと、こっそり教えてくれた。



味や材料が変わってしまったのも、その経営者の

判断なのだろう。


マズい、とまではいかないが、以前の味と比べると

月とスッポン、巨像と蟻、雲泥の差だった。



超絶美味だった秘伝のたれは、ただの味の素の

塊りになってしまった。




その後、このラーメン店は破竹の勢いで店舗を増やし

いまや全国知名度までになっている。



だが、以前の美味しさを知っている人間は、

この店の暖簾をまたぐことはないだろう。





美味しい食べ物に出会ったとき、

その美味しさに喜ぶのと同時に、

その味が永遠に変わらないことを祈る。




END

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蚊を叩くのが上手だね、と言われる



蚊を叩くのが上手だね、と言われるたびに、

ええ、O型ですから、と答えている。



O型は、よく蚊にさされる。蚊は、O型の血を好む。

そう、テレビでも実証されていた。

はなはだ迷惑なことだ。



夏になると、誰よりも多く蚊に刺される。

ただ、O型だから、という理由で、だ。



そもそも、O型だけいうのが不公平だ。

A型はハエに好かれ、B型はゴキブリに好かれる、

というなら話は分かるが、いまのところ、

O型だけが損をしていることになる。

世の中、間違っている。



まあ不平を言っても、蚊が絶滅してくれるわけでは

ないので、自分の身は自分で守らないといけない。




昔は、誰かが「蚊がいる!」と声を上げるたびに、

慌てて逃げ回っていたのだが、

そんなことをしてもいずれ刺されてしまうわけで、

ならば相打ちを覚悟で戦うべきだろう

という境地に達したのは最近のことだ。


今では、蚊の姿を見つけると、自分から率先して

近づき、様々な技や知識を駆使して戦っている。



"温かい息を吐きながら近づく"

という技がある。


蚊は、温度の高いほうへと移動していく、という

習性がある。人の肌に近づいてくるのも、

ああ~美味しそうだ~、と寄ってくるのではなく、

人の体温に反応して動いているからだ。


この習性を利用して、蚊を仕留めるときには、

温かい息を吐きながら接近していくと、

蚊は遠くへ逃げず、身の回りを飛び回る。


こうすることで、蚊を見失うことがなくなるし、

自分の腕のリーチの範囲で戦うことができる。


この技は非常に使いやすく、また効果も高いので、

撃退率を飛躍的に上昇させてくれた。




戦いには、技だけでなく知識も必要だ。



メスは血を吸う、が、オスは吸わない。


つまり、オスの蚊と戦う必要はないのだ。


メスは、体が大きく、動きが遅い。

オスは、体が小さく、動きが素早い。

難しいが、慣れてくるとすぐ見分けられる。


「蚊がいる!二匹も!」という事態のとき、

素早く飛び回っているオスのほうに気を取られて、

その隙にメスに刺される、という間抜けなことに

なるパターンがよくある。

目障りなオスのことはあえて気にせず、

メスを仕留めることだけに心身を集中する、

これだけでも、憎きメスの蚊の撃退率が上がる。




万が一、蚊の姿を見失ったときに有効な技がある。


蚊の生態を研究している大学教授によると、

蚊のオスとメスは、互いに音波を出しており、

メスは、オスを探すときに、

ピアノ音程でいう "ラ" の音波に引き寄せられるそうだ。


「蚊がいる!しかもメス!ああっ、見失った!」

という混乱に見舞われたとき、

慌てずに、すっと部屋の真ん中に立ち、

ラーラーラーラー、

と、声高らかに唄う。


そうすれば、隠れていた蚊がノコノコと姿を現す、

そこを仕留めればいい。


一度この技を実践してみたのだが、残念ながら

仕留めることは出来なかった。

おそらく、ラの音程がずれていたのだろう。


周囲に人がいる場合は、先に十分な説明をして

行動したほうが無難だろう。説明も無しに行動に

移ってしまうと、アブナイ人だと思われかねない。




いずれにせよ、

O型の血液型で生まれついたからには、

プライドや外聞をかなぐり捨ててでも、

夏の蚊と戦う心得が必要だ。




余談だが、世界における血液型分布によると、

南米諸国、とくにメキシコやブラジルでは、

国民の75%以上がO型なのだそうだ。


かの国には、憎き蚊と戦うための必殺技が

数多く存在するのだろう。


機会があれば、ぜひ会得させてもらいたいものだ。




END

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太ってきたので、またフィットネス



太ってきたので、またフィットネスクラブに通うことに決めた。

いずれこうなるだろうな・・・とは想像していたのだが。



フィットネスクラブに通うと、劇的に痩せることができる。

たくさん運動するから痩せる、という単純な理屈だ。


人は、食べて太り、動いて痩せる。いや、じつに単純だ。



四年程前に、街中のフィットネスクラブに通った。


「ダイエットシンゴ」という本を読んだのがきっかけだ。

香取慎吾がドラマの役作りのために、"筋肉質で痩せた体"

を目指して、食生活や運動量を大きく改善していく本だ。


ダイエット本は数知れず出回っているが、この本は面白い。


普通のダイエット本だと、

「ダイエット中は、絶対に暴飲暴食してはいけません。」

とだけ書かれていて、その一文を読んだだけでヤル気が

失せてしまうのだが、香取慎吾は、ダイエット中でも、

「あー!もう駄目!」と、平気で友人と飲みに行ってしまい、

ステーキやピザをたらふく食べてしまう。

翌日になって深く自己嫌悪し、その日は野菜スープだけで

過ごして、前日の暴食と帳尻を合わせようとするのだ。


豚骨ラーメンなど、ダイエットの最大の敵だが、彼の場合、

「麺を半分残して、スープを飲み干さなければOK」という

勝手な解釈で食べてしまう。

食べたいものが食べれないストレスを感じて太るよりマシ、

という理屈だ。いやぁ、実に理にかなっている。



食事はともかく、欠かせないのが運動だ。

豚骨ラーメンを食べた翌日は、必ずフィットネスクラブで

運動をする。食べた分を取り返すわけだ。

逆にいえば、フィットネスクラブに行く日、または前日の

夜は、多少おいしいものを食べても、自己嫌悪せずに

過ごすことができる。


タイガー・ウッズは、ハンバーガーが大好物だそうだが、

食べたあとに5キロは走るらしい。

ハンバーガーのために5キロも走るのか、と考えると

そこまでして食べたいとも思わないものだが、

これがフィットネスクラブに通っていると、なんだ5キロで

済むのか、という感覚になってくる。



自分が以前通っていたフィットネスクラブには、

ランニングマシーンコーナーの前に、何台もテレビが設置

してあり、イヤホンをつけてテレビを楽しみながら走ることが

できた。走ることに集中していると、あまり長続きしないのだが、

テレビを観ていると、これが適度に気が散って、案外長く走る

ことができるものだ。


そういえば、サッカー中継が始まるのと同時に、ランニング

マシーンで走り始めたことがある。

サッカーというのは、とにかく走るスポーツなので、これは

いいキッカケだと思い、プレイボールと同時に走り始めて

みたのだが、前半が終わった時点で力尽きた。

サッカー選手は、やはりすごい体力の持ち主なのだ。



ランニングマシーンで走る、というだけで、体の脂肪は

テキメンに落ちていく。脇腹についていた脂肪が取れて、

ズボンがブカブカになる。アゴが削げる。カッコ良くなる。



脂肪が適度に落ちたあとは、筋肉をつける。

ダンベル運動をしたり、様々な運動器機を使って、

体のいろんな場所に、つけたいだけの筋肉をつける。



オトコとしては、この運動が非常に有意義なのだが、

ひとつ、大きな問題がある。




あまり熱心に筋肉運動ばかりやっていると、気のいい

人から声をかけられるのだ。


「いい体になってきたね・・・、僕と友達にならないかい?」

つまり、そういう人達だ。



「友達になってもいいけど、ホモ達にはなりませんよ」、と

はっきり断りたいところだが、なにしろフィットネスクラブで

大量の筋肉をつけている人達だ。もしもトラブルになって

取っ組み合いになっても、絶対に勝てるはずもない。


「はぁ・・・よろしくお願いします。」と答えながら、そっと

その場から去る。そして、その日は絶対にサウナルーム

に入らない・・・これが彼らと揉めない秘訣だ。



もうひとつ、大切なことがある。


彼らの"恋"に決して接しない、ということだ。



通っていたフィットネスクラブに、地元テレビ番組に出演

している男性タレントが通っていて、自分は彼を見知って

いたので、ある時、たまたま一緒になって会話をしていた。

話が終わって彼が去ったあと、ふと自分の後ろに気配が

して振り向いてみると、色白で、しかし筋骨隆々とした体で、

重量上げ選手のようなユニフォームを着た一人のオトコが、

自分を涙目で見つめながら、カン高い声で言った。



「あなた、彼の、何なんですかっ?どういう関係ですかっ?」



瞬時に、ヤバイ!と思って、すぐにその場を立ち去ろうとした

ところ、そっと優しく腕を掴まれた。ビクッとその場に立ち止まる。



「もうここには来ないでください。お願いですから。お願いです。」



そう言って、彼は、さっと顔を伏せ、遠ざかっていった。



あのときほど、カラダ中に鳥肌がビッシリと出たことはない。


彼の要望を容れ、間もなく、フィットネスクラブ通いをやめた。




いま、あらためてフィットネスクラブに通おうとしているが、

無論、前に通ったところへ行くつもりはない。なるべくそう

いった人達と接することのないような場所を探している。


入墨をした人はお断り、との規約は目にするのだが、

ホモはお断り、というルールを決めている処は、どうも

無いようだ。




ホモ対策だけは、自力で何とかしなければいけないのか…。




END

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なぜこんなに空耳が聞こえてしまう



なぜこんなに空耳が聞こえてしまうのだろう。



自分は、どちらかというとよくしゃべる方だが、

同時に、人の話も結構しっかりと聞く方だ。



しかし、人の話を聞いているうちに、よく、

空耳にハマってしまうことがある。


言葉を、間違って聞き取ってしまうのだ。



人が言っている言葉が正確に聞き取れない、

ということは、言っている意味が正確に伝わらない

わけで、おのずと会話が成り立たなくなる。




昨日も、食事が終わったあとに、通い慣れた

レストランバーへ行き、ギネスを飲んでいた。


オーナー夫婦には小学6年生になるかわいい

男の子がいるのだが、最近その子が、

お父さんと一緒にお風呂に入ってくれなくなった、

という。


彼はとてもショックだったらしく、こう言った。


「もうあいつと風呂に入れないと思うと、悲しくてね。」


うんうん、と頷きながら、

彼を励まそうと、何か話をしようとしたところ、

自分より先に、彼の奥さんが相槌を打った。



「それが父ちゃんの楽しみだったのにねえ・・・」



それを聞いて、えっ?何で?と、一瞬、驚いてしまった。



自分には、その言葉が、


「それ加藤茶のネタの締めだったのにね・・・」


と聞こえたのだ。



いや、おかしい、そんな言葉が出るはずはない、と、

すぐにそのシーンを振り返り、

あ、なるほど、父ちゃんの楽しみ、と言ったのか、と

正しい言葉を思い起こすことができた。

そのことで一瞬、時間がかかってしまったが、

すぐに、彼を励ます言葉を思い出し、無事、

会話をつなぐことに成功した。


おお、ぎりぎりセーフ、といった感じだった。




セーフではなく、アウト、になってしまったこともある。




高校時代の友人と4人で、麻雀をしていた。


その日、異様にテンションが高く、皆しこたま

酒を飲んでいた。


そのうち、自分を含めた3人は、酒の勢いで

大騒ぎしながら、やれポンだ、やれチーだと、

鳴き合戦になってきた。が、あとのひとりが、

ポツリとも会話せずに、黙々と打っていた。


なんだ、こいつダマで張る気か、と、彼を横目で

睨んでいたら、彼が、ボソリとつぶやいた。



「・・・やっぱ美白・・・」



はぁ?美白?こいつ何言ってんだ、おかしいぜ!

と、彼の頭や背中を何回も引っぱたいて笑った。



次の瞬間。


彼は、うつろな表情で、雀卓に向かって、

胃の中の物をすべて吐き出した。



いやもう、麻雀どころではない。

雀荘のオバちゃんがなにやら喚きながらやってきて、

もう出てってくれ!と怒り出し、全員外に出された。



足取りもおぼつかず朦朧としている友人を支えながら、

あのとき彼は、



「・・・やっぱり吐く・・・」とつぶやいたのだ、と解った。



それを聞いてすぐにトイレに連れていけば、こんな

事態にはならなっただろうに、と、自分の空耳に

心から憎しみを感じたことを今でも覚えている。




いや、もっと深く記憶に残っている空耳がある。




10年来の知り合いから誘われて、ある異業種

交流会に参加していたことがある。その会に、

自分と同い年の男がいて、彼と非常に

仲良くしていたのだが、ある日、彼の会社の上司、

という女性が、ちょっと挨拶というノリで参加してきた。


齢60は過ぎているであろう女性で、派手な服を着て、

両手にはゴロゴロと指輪をはめ、真っ赤な口紅を差し、

極太の筆で描かれたような顔をした強烈な女性だった。



会の主催者も、その女性にちょっと恐れをなしたようで、

まずは軽く、


うちの会の○○くんの上司、でいらっしゃるようですね、


と聞いてみたところ、その女性は、にっこり笑いながら、


わたしなんか、こんな派手なオバサンでしょ?彼の

眼中にも入ってないと思いますけど、一応上司だから、

今日は彼の隣に座らせていただきますね。嬉しいわ。


と、ユーモアたっぷりに答えたものだから、

周囲もホッと胸をなでおろし、それから先は酒と食事と

笑い声で盛り上がってきた。



会も半ばに差し掛かったころ、メンバーのひとりが、

○○くんは会社でもモテるんでしょうね、

と、その女性に聞いたところ、

それはもう、彼は優秀だし顔もいいし、モテてますよ。

との返事で、周囲はヤンヤヤンヤと彼をもて囃した。




だが、次の彼女の言葉が、自分を驚愕させた。



「実は、彼、王子様なの。わたしオツボネなの!」



彼女が満面の笑みでそう言った瞬間、

回りは大爆笑に包まれた。


王子様、と言われた彼のほうも、

そんなこと言わないで下さいよ、と顔を真っ赤にして

照れ笑いをしながら下を向いていた。




笑いにつつまれたその場に、自分はひとり、

驚愕の表情で固まっていた。

なぜ、みんなそんなに爆笑できるんだ?と疑った。



彼女があのとき、何といったのか、その正確な言葉が

解ったのは、それからかなり後のことだった。



あのとき、自分には、間違いなく、こう聞こえたのだ。



「実は、彼、王子様なの。わたしのツバメなの!」



・・・解説するまでもないと思うが、ツバメとは、

年増女に養われている若い男、という意味である。


その言葉を聞いた瞬間、すぐに○○の顔を見た。

ツバメ、と言われて、なぜか照れ笑いをする彼。

その彼と、上司のオバサンを囲んで、笑い声に

耐えない仲間たち。まったく意味が解らない。

○○、お前はこんなオバさんのツバメだったのか。

なぜ俺に黙っていたんだ・・・。笑いものにされて、

お前は悔しくないのか。



自分は、この会には合わない、と思い、それから

数ヶ月、誘われても顔を出すことは無かった。




・・・今考えると、何てお馬鹿な空耳だったのだろう、と

反省してしまうが、空耳というものは、自分にとって

非常に怖い存在なのである。



いま自分は、あの時の会よりも、もっともっと楽しい

異業種交流会に参加させてもらっており、魅力的な

先輩や仲間達に囲まれている。



その大切な環境を失わないために、早いところ

空耳を克服したい、と、本気で考えている。




END

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外国人力士が暴れた、と、今朝の



外国人力士が暴れた、と、今朝のネットニュースを読んで知った。



そのタイトルを見た瞬間、その外国人力士とやらが、

土俵入りのときに、スタン・ハンセンみたく客席に暴れ込んだのか?

などと心配してしまったが、よくよく読んでみると、

取り組み後に相手の日本人力士と揉めて、その後、

テレビカメラマンに対し、八つ当たりで暴力を振るったらしい。



このニュースを見た大多数の日本人が、

「やっぱり外人は怖い!すぐ暴れる!」

などと恐怖心に駆られたことを想像できるが、

これはおそらく、外国人への身勝手な先入観によるものだ。


日本人は往々にして、外国人に対する恐怖心、というものを

持ち合わせていることが多い。


野球の外国人助っ人はよく暴れて退場になるし、

六本木の飲み屋で外国人が暴れる、というのも

見慣れた風景になってしまっている。

確かにそういうイメージを抱かれてしまうことは否めない。


しかし、よく考えてみれば、

野球でいえば清原だってよく暴れるし、

野球監督の退場回数の日本記録を持っている

元日本ハム監督・大沢氏も、紛れもなく日本人だ。

六本木でも銀座でも、

ストレスの溜まった日本人サラリーマンのお父さん達は、

日々アタマにハチマキを締めて暴れていることだろう。


暴れるのは、何も外国人に限ったことではない。


今回の外国人力士の例でもそうだ。


第60代横綱・双羽黒(北尾)など、

ちゃんこがマズイと言っては暴れ、

付き人がゲームのセーブデータを消したことにキレて暴れ、

最後は部屋のおかみさんを蹴飛ばしたりと、

暴れ放題だったではないか。



外国人だからといって、「暴れる、コワい」などと、

身勝手な恐怖心を抱くのは、ちょっと筋違いである。



逆に、外国に行ってみると、

日本人のほうが怖い存在だと思われてしまうこともある。



自分はまさに、それに遭遇した一人だ。





高校を卒業したのち、一年ほど海外に留学した。


留学先の街は、日本人が多く住んでいなかったこともあり、

クラスの皆から、実に珍しがられた。


まず、最初に自分についたアダ名が、「アキラ」。

3日ほどして理由が解ったのだが、

当時その国では、映画界の巨匠、アキラ・クロサワと、

漫画ドラゴンボールの作者、アキラ・トリヤマの、

この2人の日本人の名はとても有名で、

更に、日本のアニメ映画「AKIRA」が上陸して、

若い者の間で人気を博していたことから、

"日本人男性といえばアキラだろう"

という勝手な解釈がまかり通っていたのだ。


なんてイイ加減な国なんだ、と思わざるを得なかったが、

どうもラテン系の国では、しばしば

本名とは関係ない名前をつけられることがあるようだ。


サッカーの王様"ペレ"は、

あれは本名ではなく"裸足"という意味だし、

日本でもお馴染みになったサッカーの神様"ジーコ"は、

"やせっぽち"という意味だ。

現在の選手では"ロナウジーニョ"、あれは、

"ロナウドの弟分"という意味で、

どれもとっても、彼らの本名とはまったく関係のない、

まさにアダ名なのだ。


日本人男性を"アキラ"と呼んでくれるのはともかくとして、

では日本人女性を何と呼ぶのか?と聞いたところ、

クラスの男達が突然、大笑いしながら、

カガマリコ!カガマリコ!」と騒ぎ出したのには驚いた。


黒澤明や鳥山明はともかく、

なぜ加賀まりこがそんなに有名なのかと怪しんでいたら、

女の子達が、

「そんな汚い言葉を口に出さないでよ!」と騒ぎ出した。


後から聞いたところ、カガマリコ、というのは、

現地の言葉で、"うんこ垂れ"という意味だったのだ。


クラスの男たちが、どうやって加賀まりこの存在を

知ったのかは不明だったが、とにかくそのクラスに

日本人女性がいなくてよかった、と胸を撫で下ろした。


話は戻るが、クラスの一員となって間もなく、

クラスの男子達から、いろんな質問を浴びせられた。



中には他愛のない質問もあったが、

彼らが一様にして眼を丸くしたのは、


「何かスポーツをやるのか?」との問いに、

柔道をやったことがある」と答えた瞬間だ。


彼らが一斉に、「ジュードー!」「カラテ!」と声を上げたことを、

今でも鮮明に覚えている。


・・・カラテは明らかに何の関係もなかったはずだが、

彼らの中では、ジュードーとカラテは、

なぜか一つのものとして考えられていた。

日本人が、野球とクリケットの区別を重要視しないのと

同じようなことだろう。


そして、このジュードーとカラテを身につけたものは

最強のファイターなのだという、

これまた勝手な解釈がまかり通っていた。



その翌日から、

自分のアダ名が、「ジャッキー」に変わっていた。


これはさすがに、ジャッキー・チェンからとったものだと

すぐに解ったのだが、

そもそもジャッキー・チェンはカンフーの達人であって、

それ以前に、彼は日本人では無い。


だが、彼らにとっては、そんなことはどうでも良かった。

ジャッキー・チェンという最強のアジア人になぞらえて、

「アジア人の強い友人が出来た」

と思えたことが、彼らの喜びであった。



それから1ヶ月ほど経ったある日の夜のことだ。



その日、クラスメイトの5人と、町場のバーで食事をしながら、

その日行われたサッカーの話題で盛り上がっていた。


その頃は、まだ現地の言葉を十分に理解できなかったので、

いつもなら誘いを断っていたのだが、

たまにはクラスメイトとの付き合いも必要だと思って、

その日はたまたま同席していた。

それが運命の悪戯だった。



仲間が、ライバルのサッカーチームのことを非難したところ、

隣のテーブルにいた別のグループが、

今度はこちらのテーブルが応援しているチームのことを

痛烈に非難し始めたのだ。


どちらのテーブルも総立ちになり、大声でお互いを罵り始めた。

と思ったのも束の間、

てめー、表に出ろ!」といった危険な言葉が飛び交い始めた。



・・・もう想像できてしまうと思うが、

今思い出しても、その後の展開は、まるでB級漫画のようだった。



仲間の一人が、突然、自分を指差し、

こいつはジャッキー!カンフーとジュードーの達人だ!

そしてこいつは、俺達の仲間で、お前達の仲間ではない!

それでもヤル気か!

みたいなことを言った。


ジャッキー、というアダ名で呼ばれることにはもう慣れていたが、

まさかここでカンフーとジュードーの達人、などと

紹介されるとはまったく想像もしておらず、

自分を指差す仲間のシャツの袖を引っ張りながら、小声で、

「ムリ、絶対ムリ」と、カタコトの現地語で抵抗したのだが、

時すでに遅し、であった。


相手のヤンキーのような男が、何やら大声を上げながら、

自分の髪の毛を引っ張って席を立たせ、思いっきり殴った。


その勢いでよろめいて、

隣のテーブルに後ろから倒れこみそうになったのだが、

そのテーブルの人達が自分の背中を押してくれたお蔭で、

かろうじて倒れずに済んだ。


その隣のテーブルのおじさんが、何か大きな声を上げて、

自分の肩をバンバンと叩いた。

その言葉の意味は解らなかったが、とにかく自分を

応援してくれている気がした。それで気を持ち直した。



あのとき、何と言ったのだろうか。日本語で大きな声で、

あんだコラ!調子乗んなよ!

みたいな言葉を相手に浴びせた。



聞いたことのない日本語の罵声に、間違いなく相手は怯んだ。

そのまま足早に、相手の胸元まで近づいて、

相手の襟をつかみ上げ、顔を数センチの距離まで近づけて、

また日本語で何か言おうとしたが、

それでは通じないのだと思い留まり、ちょっと考えた末に、



俺はお前を倒せる。だが、殺すことも出来る。店の外に出ろ。

と、現地の言葉で言った。



なにせカタコトの現地語である。もしカタコトの英語で言うなら、

アイ・キャン・ノックアウト・ユー。

バット、アイ・キャン・キル・ユー・トゥー。

レッツ・ゴー・トゥ・アウト・オブ・ショップ。

みたいなものだったろう。



その言葉の内容に恐怖したのか、

あるいは、このカタコトの言葉のあまりの幼稚さに

逆に恐れをなしたのか、とにかく、

相手の眼の色が変わった。


相手は、何かペラペラと早口でしゃべりながら、

眼を泳がせて後ずさりをし、

仲間と一緒に慌てて外に出ていった。




一息ついた瞬間、周囲のテーブルがざわめき出した。

仲間達は跳び上がって喜び、

これまたペラペラと早口でしゃべりながら、

自分を歓呼の嵐で迎えてくれた。


なぜ相手を一発なぐり返してやらなかった?」と一様に聞かれた。


無論、相手の耳元で、店の外に出ろ、と言ったわけで、

こちらとしては相手を一発なぐり返してやる気で満々だったのだが、

仲間の歓喜の表情に、アドレナリンが沸騰してしまい、


殴られるのは嫌いだが、人を殴るのはもっと嫌いだ。


と、これまたB級漫画の主人公のようなことを言ってのけた。

それを聞いた仲間達は、まるで

キリストに出会ったかのような、恍惚とした表情で自分を見つめた。

このアジア人は、なんと拳を交えることなく、

耳元で囁いただけで、相手を退散させてしまったのだ。


「相手の耳元で何と言ったのか?」とも聞かれたのだが、

まさか今更、表に出ろ、殺してやる、と言ったのだ、などと

打ち明ける訳にもいかず、そのまま放ったらかしておいた。



・・・ここで、ようやく本題に戻る。



その出来事は、その場にいた仲間達によって、

学校の多くの生徒達や教師達に広まっていった。


B級漫画であれば、

その日本人は学校中のヒーローになりました、めでたしめでたし、

といったオチになるだろう。

ちなみに、落合信彦の自伝『アメリカよ!あめりかよ!』では、

内容もオチも、見事にそうなっていた。



しかし、残念なことに、自分の場合は、そうはならなかった。



この話が学校中に広まっていくにつれ、

だんだんと事実が歪曲されていき、

喧嘩を売ってきた相手をボコボコにした日本人

という話になってしまったのだ。



もし、事実がそのままに伝わっていたなら、

学校のみんなに、日本人の素晴らしさ、もっと言えば

武士道のようなものを伝えることができたのだろう。


だが、事実が異なって伝えられたために、

"日本人はコワい"という、要するに、

ただの恐怖心を植えつけてしまったのだ。



まあ、事実ではなく真実を言うと、この日本人は

実際に「殺してやる」と相手に言ったわけで、

やはり"日本人はコワい"ということになるのだろうが、

この際、そんな真実はどうでも良い。





あれから12年、

もしそのままあの話が広まっていったとしたら、

あの町の人々は間違いなく、日本人に対する

強い恐怖心を抱いてしまっていると思う。


アキラだジャッキーだと、勝手な先入観で人の名前を

つけてしまうような国である。ただ「日本人」というだけで、

勝手な先入観で恐怖心を抱かれることに疑いはない。

なんとも不幸なことではないか。



・・・このようにして、自分は外国において、

外国人の日本人に対する恐怖心、が生まれた現場に、

生で居合わせてしまったのだ。




なんだか実もフタもないオチになってしまったが、

とにかく、何を言いたかったのかというと、


「スモウもジュードーも、素晴らしい国技ですね」。


・・・いや、そうでなくて、

外国人に対する身勝手な恐怖心を抱くべきではない

ということなのだ。



END

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虫歯になったことないよ、と、一昨日、



虫歯になったことないよ、と、一昨日、

久しぶりに会った地元の友人達に話したところ、

とても羨ましがられた。



虫歯になったことが一度もないので解らないのだが、

歯痛というのは、実に痛いものらしい。



昔、職場の部下に大事な仕事を任せていたのに、

急に、歯痛で仕事ができそうもないので休ませてほしい、

という電話が入ったので、

虫歯で休むなよ!と、電話口で怒鳴りつけたことがある。

その電話を切ったあとに、周囲から猛攻撃された。

歯痛で仕事ができない、というのは、よほどの痛みでしょう、

それなのに怒鳴りつけるなんて、ヒドイですよ!

というのだ。

そのことを、今の会社の仲間に話したところ、

ひどい歯痛の時というのは、精神的にもバランスがくずれ、

仕事はともかく、人に会うことすらままならない状態になる、

という。

もしも、俺がその歯痛の部下の立場で、

もしも君に目の前で怒鳴られているとして、さらに、

なぜか近くにナイフがあったとしたら、

俺はそれを手にとって、君を滅多刺しにすると思う。

などと言う仲間までいた。

虫歯とは恐ろしいものだ。



でもなぜか、これまでの人生で、

「わたしも虫歯になったことがないよ」

と言ってくれる人に出会ったことが、ただの一度もない。

そして、これからも出会わないことを祈っている。



それには、ちょっとしたワケがある。



実は昔、

虫歯だけじゃなく、肩こりになったことも無かったのだ。

このことも、回りの人から、実に羨ましがられた。

まあ、肩こりで仕事を休む、というまではいかないだろうが、

サラリーマンの内勤になると、パソコン仕事が多いので、

肩こりのひどい人は、夕方から仕事が進まなくなるらしい。

そのことを会社の仲間に話したところ、

その中の一人がこう言ったのだ。



「僕も昔は、まったく肩こりには縁がなかったけど、

最近、急に肩がこるようになったんだよね。

ほんと、突然だったんだよね。だから君も、突然、

肩こりがくるかもしれないよ。」



そんなことを言われてしまうと、

本当に肩こりになってしまいそうな気がして、

その日はずっと自分の肩を意識しながら生活し、

シャワーのときも、肩に重点的に温水を当てて、

寝るときも、なるべく肩に負担のかからない体勢をとり、

いろいろと思案して眠りについた。



すると翌日。



突然、肩こりが始まったのだ。



人間の自意識というのは怖いものだ。

こんなにすぐに肩こりになってしまうなど、想像もしていなかった。

・・・・いや、なんとなく想像してしまったからこそ、

肩こりになってしまったのだろう。

もう、とにかく痛くて痛くて、

パソコンのキーボードを叩く衝撃にすら、痛みを感じるほどだ。

他の誰を恨みようもないので、

余計なことを言ってくれたその仲間を、

ネチネチと恨みながら仕事をしているのだが、

そんなことをしても肩こりが治るわけでもない。



この肩こりが、あの日の自意識から生まれてしまったものなら、

治す方法はひとつしかない。

「ある日突然、肩こりになってしまった、

でも、その後に突然、治ってしまったよ。

だから君も、突然治るかもしれないよ。」

と言ってくれる人に巡り合う。これしか方法はない。



まあ、

そんな人に出会うチャンスが薄いことぐらい分かっているので、

この肩こりとは一生付き合い続ける覚悟は出来ているのだが、

もうひとつのほうが問題だ。



もし目の前に、自分と同じように、

これまで一度も虫歯になったことのない人が現れて、



「突然、虫歯になっちゃったよ。もしかしたら、君も・・・・」



いやいや、そんな想像をするのは、やっぱりやめておこう。

自意識を、捨てるのだ。



END

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