カテゴリー「クルマの話」の2件の記事

会社の仲間の女性が軽自動車に



会社の仲間の女性が軽自動車に乗っているのだが、

半年に一度のペースで、クルマを買い換えたいと騒ぎ出す。




最初に騒ぎ出したのは1年半ほど前。

「軽自動車で事故ったら死ぬ」という話を聞かせた時だ。


自分は以前、テレビ局に務めていたことがあり、

ニュースを伝える「報道部」に関っていたことがある。

報道デスクには、その日に起きたあらゆる事件が

いち早く無線で入ってくる。


「先ほど、○時○分、□□交差点で、乗用車事故」

このような無線が飛び込んでくるわけだ。

こういった情報を得た報道デスクの責任者が、現場へ

報道班を送り出すかどうかを、即座の判断で決める。


例えば、

「重傷者2名、現在、救急車が現場へ急行中」

という追加情報があれば、間違いなく報道班が動く。

重傷、もしくは死亡、といった事故である場合、

ニュース性が高いと判断されるわけだ。


逆に、怪我人が出なかったり、軽症程度の

事故であれば、ニュース性が低いと判断され、

報道班が動くことはない。



だが、

「乗用車と軽自動車による衝突事故、詳細は不明」

という情報が来たとする。


詳細不明なので、重傷者か死亡者が出ているか

どうかはこの時点では分からないが、この場合、

報道班は動く。なぜなら、相手が軽自動車だからだ。


軽自動車は、言葉の通り「重量が軽い」ので、

事故に合うと、車体がグシャグシャになるか、

さもなくば吹っ飛んでしまう。


重態、あるいは死亡事故である可能性が高いと

報道デスクが判断して、報道班を動かす。

テレビニュースのネタとして格好の事故なわけだ。


軽自動車というのは、これほどまでに恐ろしい。




このことを仲間の女性に聞かせたところ、

青ざめた顔になって、すぐに買い換えると騒ぎ出した。



しかし、タイミングが合わずに、買い損ねた。





次の二回目の騒ぎは、笑えるキカッケだった。


自分は今、ゲレンデという四駆車に乗っているが、

これに乗り出した直後から、周囲の仲間達が、

「そのクルマ、よく街中で見かけるね」と言い出した。


これは、よくある現象だ。

親しい者が新しいクルマに乗り出すと、そのクルマが

目に焼きついてしまい、街中で走っている同型のクルマに

目が止まるようになる。

それで何となく「よく見かける」ようになるわけだ。


このことを仲間の女性と話しながら、その女性の軽自動車に

乗ってドライブしていたところ、その軽自動車と同型のクルマ

と、偶然、3台すれ違った。すると、突然女性が騒ぎ出し、

やっぱり今すぐ買い換える、と言う。



自分は気付かなかったのだが、女性は、すれ違う同型の

3台クルマの運転手の顔を見たところ、

一人はハゲのおっさんで、一人はヨボヨボのじいさんで、

一人は、大昔は人間の女性でしたという面影を幾分残した

ヒグマ、のような巨漢のオバサンだったそうだ。


こんな人達と同じクルマに乗っている自分が許せない、と

思ったのであろう。すぐクルマ屋に直行し、新しいクルマに

買い替えようとしたが、これも折り合いがつかなかった。





そして今回。


ある知り合いから、「君にはそのクルマは似合わない」

と、ストレートに言われてしまったらしく、さっそく騒ぎ出した。



これまでは、そのままクルマ屋へ直行して、あれでもない

これでもないとカタログとにらみ合っているうちになんとなく

満足してしまってそのまま買いそびれる、というマヌケな

状態が続いていたが、さすがに三回目となると、クルマを

選ぶにも条件が整っていた。



スマートな形のクルマ、つまりクーペタイプ。

ヨーロッパのクルマ。

180万円ぐらいで買えるクルマ。

さらに運転免許がAT限定なので、オートマ車。



まあ、180万で外車のクーペを買うとなると中古しかない。



目当てのクルマが見つかった。ちょっと前の型の"プジョー"


紺色のボディにベージュ色の革シートという、ヨーロッパらしい

色の組み合わせで、しかもオープンカー、オートマである。


さっそく試乗させてもらい、とても運転しやすかったらしく、

彼女は大喜びして、見積書をもらった。



自分としても、彼女のクルマ選びに毎回付き合わされる

たびに、ああだこうだと振り回されていたので、これで

ようやく新しいクルマが決まったと、内心ホッとしていた。




だがそのあと、事件が起こった。




そのクルマを試乗した帰り道、ちょっと高級な中古外国車

の専門店があったので、なんとなく立ち寄ってみた。


"BMW Z4"というカッコいいクルマがあり、試乗はさせて

もらえなかったが、運転席に座ってハシャいでいたところ、


「このクルマは女性にピッタリです。革シートだけ我慢して

もらえれば、女性にとってこれ以上のクルマはありません」


と、お店のスタッフが言ったのだ。



どうやら、革シートというのは、"夏は暑く、冬は寒い"もので、

とくに女性がスカートをはいて運転する場合、夏になると

ムレてしまうし、冬になると足腰が冷えてしまう、という。




それを聞いた彼女は、その場で顔をしかめ、

「さっきのプジョーは、革シートだったから、やっぱりダメ」

と、手のひらを返したようにダンマリになってしまった。




ああ、やっぱり今回もこうなってしまったか、と思いながら

肩を落としていたら、そのスタッフが突然、思いついたような

晴れやかな顔をして、


「あなたの条件にピッタリのクルマが、一台あります!」


と言うではないか。




すぐにそのクルマを見せてくれた。


思わず、目がテンになった。




他のクルマを圧倒する、美しい螺旋形のクーペ。

黒光りするような光沢をもつボディ。

18インチはあろうかという、大きく太いタイヤ。

エンジンをかけると、濃い轟音を立てて小刻みに揺れ

始める。

レースカーのような小さなハンドルに、体を包み込むような

スポーツタイプのシート。確かに、革シートではない。

そして、なぜか、オートマ。


クルマのフロントには、ヨーロッパを代表する、クルマ史上

最強ブランド「ポルシェ」のエンブレムが輝いていた。



ポルシェといえば、あのカエルのような顔をしたスポーツ車

"911"が有名だが、このクルマは"968"というモデル。

とくにボディラインの美しさを追求したモデルで、女性を

ターゲットにしているので、オートマタイプなのだそうだ。



とはいえ、腐ってもポルシェである。バリオカムと呼ばれる

特殊なターボエンジンを搭載し、250馬力のパワーを誇る。



前述したように、ポルシェといえば"911"と相場が決まって

おり、この"968"は、人気の上では不人気車らしい。

新車発売当初は800万円ほどしたそうだが、その後に

人気が低迷し、いまは200万を切るモデルが中古市場に

出回っているのだという。



クーペで、ヨーロッパで、オートマで、180万で買えて、

革シートではない。この時点で、条件は満たしたのである。




何はともあれ、まず女性本人を座席に座らせてみようとした。


だが、その女性も、さすがにポルシェの存在は知っている。

「こんな高級車に自分などが似合うはずがない」と言い出した。



いくら言っても聞かないので、ここは女性心をくすぐるしか

ないと思い、思案した末に、ひとつの逸話を聞かせた。




ある日、高級ブランドを手がける服飾デザイナーのオフィスに、

「あなたがデザインした服を一着欲しい」と、ひとりの女性が

やってきた。その女性は、見るからにみすぼらしい庶民風の

服を着ていたので、そのデザイナーは、丁重に断った。

しかしその女性はなかなか出て行こうとしないので、試着だけ

ならどうぞ、と、一着のワンピースを手渡した。

試着室から出てきた、その彼女のワンピース姿を見た途端、

デザイナーは絶句した。そして、こう言った。

「わたしの服を着た女性の中で、あなたが一番美しい。」



これは、かのオードリー・ヘップバーンと、彼女の衣装を

生涯かけて手がけることになるユベール・ド・ジバンシーの

運命の出会いの瞬間、もちろん実話である。



「オードリーがそうであったように、これまで軽自動車に

乗っていた君は仮の姿で、本当はポルシェこそが君に似合う

クルマなのかもしれない。だから、まず座席に座ってみろ!」



女性は、まんざらでもない表情で、恐る恐るポルシェのシートに

座って、そっとハンドルを握り、顔を上げた。



自分はクルマから距離を離し、遠くからその姿を眺めてみた。







・・・・・・似合わない


いやあ、まったく似合わない。似つかわしくない。



なんというか、昔、モーニング娘のテレビのステージで、

メンバー全員が細身の男性スーツを着て踊っていて、

ゴマキと中澤の二人はそのスーツが似合っていたが、

辻ちゃんと加護ちゃんだけは明らかに浮いていて、

「この二人にスーツなんか着せたら可愛そうだ」と思った、

あのシーンを思い出すようだった。






・・・「どう?似合わないでしょ?」とテレながら言う女性に、


「うん。全然似合ってないね。」とキッパリ返答してあげた。




こうして、今回のクルマ買い替え騒動は幕を閉じた。




また半年後ぐらいに、四回目の騒動が起こることだろう。




END

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こんなに燃費の悪いクルマは



こんなに燃費の悪いクルマはもうウンザリだ、と思わざるを得ない。



町乗りでリッター2.5キロ、高速メインで走っても3.5キロ、


という有様である。


ここ一ヶ月、梅雨の只中でクーラーを全開に効かせて走り、

昨日、恐る恐る燃費を計ってみたところ、

どうも2キロを切りそうだと知って、目が眩みそうになった。



車体重量が2.5トンもあり、その操作性の悪さは折り紙つきだ。

しかも、驚くほどサスペンションが硬く、

飲まずに酔えるほどに乗り心地が悪い。


友人とゴルフで遠出するのに、

快く、自分がクルマを出して迎えにいこうかと伝えたところ、

「君が運転してくれることには感謝する、が、君のクルマは

乗り心地が悪いので、僕のクルマを運転してくれたまえ。」

などと言われる始末である。



まあ、悪い点ばかりでなく、いい点もある。


いつもの通勤道に、細い路地を通るのだが、

前方からのクルマと鉢合わせになったときに、まず間違いなく、

相手のクルマがバックして道を譲ってくれる。

これは気持ちのいいものだ。


ある時など、前方から怖そうなお兄ちゃん2人が乗っている

ピカピカのジャガーが向かってきたので、

こっちが意識的に道を譲ろうとしてバックギアに入れたところ、

そのジャガーのほうがあっさりと道を譲ってくれた。


そのすれ違いざま、

「ゲレンデのアーマーゲーやん、初めて見た~、シビィ~!」

という声が耳に入ってきたのだ。



もしもあの日、下痢で腹痛を抱えて運転してさえなかったら、

すれ違いざまに運転席の窓から顔を出し、

「俺も、こんなにカッコいいクルマに乗るのは初めてさ!

でも、こんなに燃費が悪く、乗り心地の悪いクルマも初めてさ!」

と、彼らに自慢気で言ったことだろう。




『AMG・G36』

"ベンツのアーマーゲーのゲレンデ"と言うほうが、

よりポピュラーかもしれない。


このクルマ、かなり希少らしい。

これまで1年間走ってきたが、

ただの一度も同型のクルマにお目にかかったことがない。


社歴20年のヤナセの担当さんも、

このクルマを見るのは3回目だ、という。

その証拠に、あるパーツを取り寄せてもらったところ、

1週間程度で手に入るでしょう、と言っておきながら、

どうもそれが知識不足であったらしく、

結局2ヶ月を要してドイツから空輸で取り寄せ、という

事態になったこともある。


そのヤナセの彼に、なぜこのクルマは

こんなに燃費が悪く、こんなに乗り心地が悪いのかと、

やり場のない不満をぶつけたところ、


「・・・確かに、他の乗用車に比べると、劣る部分があります。

ですが、そもそも乗用車と比べてしまうからいけないのです。

トラックと比べて下さい。

私も仕事でトラックを運転しますが、あの燃費の悪さと

乗り心地の悪さに比較すれば、

このクルマもそう嘆くものでもありませんよ。」

という答えが返ってきた。


・・・乗用車ではなくトラックと比較するという、

支離滅裂な話をしてまで自分を慰めてくれたのだと思うと、

じつに感謝と怒りの念に堪えなかった。


だが、その後、インターネットのメルセデスの公式サイトで

よくよく調べてみたところ、なんと、このクルマは、

"モービル"ではなく"トラックター"に該当するクルマだと判明した。


その昔、NATO軍からメルセデス社に、

武器弾薬を運ぶための小型のトラックを製造して欲しい、

との申し出があり、

以来、このクルマは世界の戦地で活躍している、とある。



確かに、戦地の悪路を走るためにはサスを硬くするだろうし、

攻撃に耐えるための装甲を厚くする目的で、

おのずと車体重量も増えたのだろう。


しかし、自分としては、

毎日の通勤に悪路を走ることもないし、攻撃を受ける心配もない。


かといって、

通勤前に、山や川へ入って悪路を走り回ったりすることもなければ、

対向車線を向かってくるバスを見ながら、

もしもあれが過激派の乗り込んだバスで、いきなりこのクルマに

機銃掃射を浴びせてきたら、装甲は本当に大丈夫なのだろうか、

などと妄想するほど、クルマ好きでもない。

"戦地に強い"という利点は、まったく生かされていないのである。




まあ、乗り心地などはともかく、

燃費の悪さというものは、精神的に耐え難い。


ガソリンスタンドで一回に払う金額が約14.000円


驚かれるかもしれないが、ハイオクで100リッター前後を入れると

単純にこういう金額になる。


この出費のたびに、

もうこのクルマには乗るまい、軽自動車にしよう、と心に誓う。


たまたま、会社の仲間に軽自動車を所有している者がいるので、

自分のクルマのガソリンを満タンにして、心がくじけたあとに、

よく仲間の軽自動車を借りる。その翌日からは、

快適で乗り心地の良い走りを堪能する日々を送るのだ。



そして、いつもの通勤道の、細い路地を走る。


前方からきたクルマと鉢合わせになり、

こっちが知らぬ顔をして静止していると、

"お前が道を譲れ"と言わんばかりに、クラクションを鳴らされる。

ハッとして、

そういえば今日は、軽自動車を運転しているのだと思い出し、

慌ててバックして道を譲り、顔をうつむかせながら、

相手のクルマが脇を通りすぎるのを待つ。


その運転手の、悠々とした表情を横目で見やりながら、

明日は、絶対に道を譲らせてやる、と、心に誓うのだ・・・。




END

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